胡蝶蘭の植え替え:時期の見極め方と水苔・バークの選び分け

「花が終わったんですが、このまま置いておいていいんでしょうか」
庭師の翠葉凛(すいは りん)です。
春になると、この相談をいちばん多くいただきます。
お答えはいつも同じで、置いておくより植え替えたほうがいい、です。
胡蝶蘭が翌年も咲くかどうかは、目に見える花ではなく、鉢の中の状態でほとんど決まってしまうからです。
時期の見きわめ方から、水苔とバークの選び分け、当日の手順までまとめました。

胡蝶蘭の植え替えは、鉢の中の寿命を入れ替える作業です

胡蝶蘭は東南アジアの木の幹に根を張りつかせて育つ着生ランで、もともと土の中で暮らす植物ではありません。
鉢の中に入っている水苔やバークは、その木肌の代わりに人が用意した仮の住まいです。
仮の住まいですから、当然ながら傷みます。

植え込み材は2年でくたびれます

新しい水苔はふわりと弾力があり、握って離すと戻ってきます。
2年たったものは繊維が崩れ、指で押すと粘土のようにへたったまま戻りません。
そうなると水を含んだあと乾ききらず、根がずっと湿った状態に置かれます。

私の庭仕事でも、根腐れで持ち込まれる鉢の多くは、病気というより「替え時を過ぎた植え込み材」が原因です。
薬をまくより、掘り上げて新しい水苔に替えるほうが早く元気になります。

根が鉢の中で行き場をなくします

胡蝶蘭の根は太くて白く、鉢の中でとぐろを巻くように伸びていきます。
鉢からはみ出して空中に伸びる根がいくつも出てきたら、中がいっぱいになった合図です。
中の根どうしが押し合うと、隙間の空気が失われ、傷んだ根から順に黒ずんでいきます。

鉢を抜かずに気づく方法もあります。
水をやったあと、いつまでたっても鉢が軽くならないときは、中の材が水を抱えたまま乾いていません。
葉が下から順に黄色くなったり、厚みが抜けてしわが寄ってきたりするのも、根が水を吸えていないサインです。
このどちらかが出ていたら、適期を待たずに一度中を見てもいいと考えています。

咲かない原因が、根にあることもあります

「日当たりも温度も気をつけているのに咲かない」という鉢を預かって、抜いてみたら根が数本しか生きていなかった、ということが何度もありました。
花芽をつくるのは葉と根の力です。
置き場所を何度も変えるより、一度鉢から抜いて根を見たほうが、答えは早く見つかります。

適期は5月から6月です

花が終わってから、暑くなる前に

NHK出版のみんなの趣味の園芸では、コチョウランの植えつけ・植え替えの適期を5月上旬から6月下旬とし、この時期に植え替えるとその後の生育がたいへんよくなる、と紹介されています。
頻度の目安は2年に1回です。

理由は単純で、この時期の胡蝶蘭は根を伸ばそうと動き始めているからです。
植え替えは根を必ず傷つける作業なので、傷を自分でふさげる元気があるうちにやってしまいます。

秋と冬に手を出さない

10月を過ぎたら、その年は見送ってください。
気温が下がると根の動きが止まり、切り口がふさがらないまま湿った材の中に置かれることになります。
私は一度、11月に頼まれて植え替えて、春までに株を弱らせてしまったことがあります。
花が終わったからといって、急いでいいことは何もありません。

ただし例外もあります。
同じくみんなの趣味の園芸によれば、室温が20℃程度ある環境なら季節を問わず植え替えは可能です。
室内の温度が安定している住まいなら、真冬でなければ融通はききます。

贈られた3本立ちは、株を分けてから

お祝いでいただく胡蝶蘭は、たいてい1つの化粧鉢に3株が寄せ植えされ、株元をラッピングで包まれています。
このままだと株元が蒸れやすく、水やりの加減も見えません。

花が終わったタイミングで、3株を1株ずつ小さな鉢に分けてあげてください。
1株につき3号から4号ほどの鉢で足ります。
大きすぎる鉢に植えると、乾くまでに時間がかかりすぎて根が傷みます。

水苔とバーク、どちらを選ぶか

植え込み材は、水苔(水ゴケ)と洋ラン用バークの二択で考えれば十分です。
みんなの趣味の園芸でも、水ゴケなら素焼き鉢、バークやヤシ殻チップならプラスチック鉢と、材と鉢の組み合わせが示されています。
この組み合わせを崩すと、水の抜け方が読めなくなります。

水苔バーク
合わせる鉢素焼き鉢プラスチック鉢
保水力高い控えめ
通気性詰め方しだいもともと高い
水やりの間隔長め短め
交換の目安2年2〜3年
向いている人水やりを忘れがちな人つい水をやりすぎる人

水苔は保水役、素焼き鉢は乾かし役

素焼き鉢は側面から水分が抜けるので、水を抱えこむ水苔とちょうど釣り合います。
表面が乾いて白っぽくなり、鉢を持ち上げて軽さを感じたら水やりどき。
この判断がしやすいので、はじめて植え替える方には水苔と素焼き鉢の組み合わせをおすすめしています。

バークは乾きが早く、根に空気が届きます

バークは松の樹皮を砕いたもので、粒の間に空気が通ります。
株の大きさに合わせてS・M・Lと粒の大きさを選び、大株ほど粗いものを使います。
水を控えるのが苦手な方には、こちらのほうが失敗しにくいと感じます。

日本洋蘭農業協同組合のファレノプシス(胡蝶蘭)のページには、水は植え込み材料がしっかり乾くまで与えない、と書かれています。
乾く間に根のまわりへ空気が入り、それが次の根を出させます。
どちらの材を選んでも、この原則は変わりません。

植え替えの手順

準備するもの

  • 新しい水苔、または洋ラン用バーク
  • 今と同じか1サイズだけ大きい鉢
  • 剪定ばさみ(火であぶるか消毒用アルコールで拭いておく)
  • 新聞紙、割り箸

はさみの消毒だけは省かないでください。
切り口から菌が入ると、せっかくの植え替えが逆効果になります。

花茎を切ってから、株を抜く

先に、花が終わった花茎を株元から2、3cm残して切り落とします。
花茎を残したままだと、株はそちらへ力を送り続けます。
植え替えの日から根を伸ばしてほしいので、上に回っている分をここで断ちます。

二度咲きを狙って節の上で切る方法もありますが、植え替えと同じ年に両方をやらせるのは株に酷です。
私は、根を作り直す年と花を見る年は分けて考えるようにしています。

鉢の縁を軽く叩きながら、株元を持って引き抜きます。
根が鉢に貼りついているときは、素焼き鉢なら思い切って割ってしまったほうが根の傷は少なくてすみます。

抜いたら古い水苔をていねいにほぐして落とします。
根の間に入り込んだ分は、割り箸の先でつつくと外れます。
水苔を使うなら、乾いたものをあらかじめ水で戻し、握って水がしたたらない程度に絞っておきます。

傷んだ根を見分けて切る

ここがいちばん大事な工程です。
指で軽くつまんで、次のように判断します。

  • 白または緑がかっていて、押すと硬い根は生きています
  • 茶色から黒に変色し、つまむとぶよぶよ潰れる根は傷んでいます
  • 中の芯だけが糸のように残り、外側の皮がむける根も傷んでいます

傷んだ根は、生きている部分まで戻って切り落とします。
半分以上落とすことになっても、迷わず切ってください。
腐った根を残したまま新しい材に入れると、そこから周りへ広がります。

詰めすぎず、緩めすぎず

水苔は根全体を包むように巻きつけ、鉢に押し込みます。
株を持って軽く揺すり、ぐらつかず、かつ指で押すと少し沈むくらいが目安です。
きつく詰めると乾かなくなり、緩いと株が安定しません。

バークの場合は、鉢に株を据えてから隙間へ流し込み、割り箸で軽くつついてなじませます。
どちらも、鉢の縁から1cmほど下げて仕上げると水やりがしやすくなります。

植え替えたあとの2週間が本番です

水は7日から10日休ませます

やってしまいがちなのが、植え替え直後にたっぷり水をやることです。
切ったばかりの根に水がかかると、そこから腐りが入ります。
7日から10日ほど水を止め、そのあと少量から再開して、2週間を過ぎたら普段の水やりに戻します。

葉が少ししわ寄るかもしれませんが、この期間の株はそれで正常です。
心配なら、霧吹きで葉の表面を湿らせる程度にとどめてください。

肥料は1か月待ちます

新しい根が動き出す前に肥料を与えても、吸えないまま濃度だけが上がり、根を傷めます。
1か月ほど置いて、新しい根の伸びを確認してから薄い液体肥料を始めれば十分です。

置き場所は、明るい日陰と18℃以上

直射日光の当たらない、レースのカーテン越しの窓辺が向いています。
みんなの趣味の園芸では、コチョウランは18℃以上のやや暖かめの環境を好むとされています。
エアコンの風が直接当たる場所だけは避けてください。
根の傷が乾ききる前に葉から水分を奪われると、株の負担が大きくなります。

まとめ

胡蝶蘭の植え替えについて、要点を振り返ります。

  • 適期は5月上旬から6月下旬、頻度は2年に1回が目安
  • 秋冬は見送る。ただし室温20℃程度が保てるなら季節は問わない
  • 水苔なら素焼き鉢、バークならプラスチック鉢の組み合わせで
  • 傷んだ根は生きている部分まで戻して切り落とす
  • 植え替え後は水を7日から10日休ませ、肥料は1か月待つ

はじめて根を切るときは、手が止まると思います。
私も庭師になりたてのころ、黒くなった根をどこまで落とすか決めきれず、結局残してしまって株を弱らせました。
胡蝶蘭は、うまく育てば数十年つき合える植物です。
今年の5月、鉢から一度抜いてみてください。
中を見てしまえば、次にどうすればいいかは株のほうが教えてくれます。